ラットマン

今年のこのミスにこの作者である道尾秀介さんの作品が二作入っており、興味を持った作品です。
ラットマンとは心理学で使われる用語で動物と並べてみるとネズミの絵に見えるが、人と並べると人の顔に見えるという同じ絵であっても周りの環境によって全く違った物に見える、と言うような意味合いで使われています。
話の筋としては主人公の幼少期に脳腫瘍で寝たきりになった父とその看病に疲れ切っていた母との間で事故死した姉は本当に事故死だったのか、という過去の記憶への回想と現在において主人公の周りで起きた殺人事件において真相を追っていくという二つの大きな流れから構成されています。
現在における殺人事件が起きるのが物語の中盤あたりなのですが、そこに至るまでも一つ一つの積み重ねがうまく、冗長と感じさせることはありません。
実際に起きたのは一つの殺人事件なのですが、それを見る人によっては全く違った風景に見えてしまう。それは過去の事故死においても同様で読む側に色々な思考を要求しながらそれらを全て覆す予想以上の結末に持っていきます。
今回の直木賞候補になったカラスの親指も以前に読んだことはありますが、個人的にはこちらの方が好みです。
良い読後感を求めるならカラスの親指、読み終わってから深い思索にふけりたいのであればラットマンではないでしょうか。どちらもお勧めです。